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No4742.
吾妻山県境尾根縦走
山行種別 山スキー
あづまやまけんきょうおねじゅうそう 地形図

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山行期間 2013年3月8日(金)〜9日(土)
コースタイム 3月8日  高湯温泉駐車場(7:03)→登山口(7:22)→磐梯吾妻スカイライン横断(8:06)→山鳥山(8:58)→井戸溝(9:27)→慶応吾妻山荘分岐(9:46)→大根森(10:14)→五色沼・大岩(10:38)→家形山(11:03)→ニセ烏帽子山(13:47)→ニセ烏帽子山・烏帽子山コル(13:35)→雪洞設営地(13:40)
3月9日  雪洞(6:24)→烏帽子山・昭元山コル(7:08)→昭元山・兜山コル(8:07)→東大巓(9:20)→藤十郎(10:39)→人形石付近(11:41)→天狗岩・凡天岩(12:30)→休憩(12:56,13:09)→若女平(14:09)→細尾根(14:26)→除雪終点(15:13)白布温泉(16:43)=バス=米沢駅(17:46)=電車=庭坂駅(18:23)=高湯温泉駐車場(18:40)
3月8日写真 写真は拡大して見ることが出来ます
除雪の終わった磐梯吾妻スカイラインの高湯温泉登山口 樹林帯を順調に高度を上げる 水飲場手前のスカイラインを横切る
山鳥山で休憩 井戸溝の橋は埋まっている 大根森から家形山はガスで見えない
五色沼で目印となる大岩 ガスで霞む家形山の肩(主三角点がある) 家形山の山頂は平坦で視界が無く方向感覚を失う
ニセ烏帽子山手前の稜線 雪庇の発達したニセ烏帽子山 ニセ烏帽子山と烏帽子山のコルに雪洞を作る
今回作った雪洞の平面図 入口をツェルトで塞いで完成 焼酎のお湯割りでほろ酔い加減

行動記録
3月8日(金)
 吾妻連峰縦走は今期の山スキーにおける試みとして、いつしか自分の心の中に芽生えていたものだ。まだ漠然とした考えだったが、山岳会のメンバーに話をしてみると、以前は会山行として取り組んでいたといい、2005年2009年の記録が会のホームページにも掲載されている。現在は諸事情から会として取り組みできる状況ではないが、自分ともうひとりの2人パーティーならできるのではと考え、実行の時期を探ることにした。しかし、これも相方の事情から断念せざるを得ないことがわかった時点で、単独での縦走を決意するに至った。ところが、自分は冬季縦走のみならず、夏道での吾妻連峰縦走でさえ行ったことがない。それがいきなり単独での縦走ということになると、会の先輩が心配するのも当然のことだろう。自分のこれまでの山行実績から、認めてもらったという次第だ。本来は厳冬期の2月中旬頃を想定していたのだが、単独行になった経緯もあり3月に実行時期がずれ込んでしまった。天候や自分自身の様々なスケジュールもあり、もうこの日程を外したら今期の実行はもはや不可能だろうと決めたのが8日と9日だった。金曜日の8日に代休を当てて、10日の日曜日は予備日にできる。気になるのは天気だ。成功には万全を期したいが、天気ばかりはこちらの都合に合わせてはくれない。週間予報ではまずまずの天気のはずだったが、実行日が近づくにつれ怪しくなってきた。天候に少しでも不安があれば、山行自体を取りやめるべきなのかもしれない。今回は後がないので、ギリギリまで粘って大荒れにはならないだろうと判断した。ただし、風はかなり強くなる事が予想され、覚悟の上で臨むことにした。
 初めてのルートに単独行で臨む場合の気持ちは、パーティーでの場合とは少々違うものがある。高揚感と期待、そして不安がない交ぜになったような気持ちとでも言ったらいいのだろうか。しかし、今回は不安の方が大きいようで、自分でも重苦しく緊張しているのがわかる。未経験の領域に踏み出す時の武者震いといえば大げさかもしれない。しかし、若いときのように勢いに任せてできる年齢ではなく、抱えているものも背負っているものも重くなった今の自分としては、とうてい軽い気持ちで行くことなどできないのも事実だ。しかも今回は一般的な白布温泉(天元台)から高湯温泉ではなく、あえて高湯温泉から白布温泉という逆ルートとした。天元台からならロープウェイとリフトで標高を稼げるが、高湯温泉からはすべて自分の足で登らなければならない。自分ひとりの単独行なら、現在の自分の体力なら、こんな欲張りなチャレンジも可能と踏んでのことだ。
 標高760mほどにある、高湯温泉の観光協会駐車場にマイカーを駐車する。もっと上の磐梯吾妻スカイライン冬期通行止め地点に車を置くことも出来るが、丸2日間置くのはちょっと心配である。計画より約1時間遅れて7時03分にスタートする。今のところ雲はあるが青空が見えていて風も無い。しかし上空の速い雲の流れが、否が応でも風の強さを予想させる。20分ほど歩くと、除雪が進み路面にまったく雪のないスカイラインを横切り、登山口から登り始める。うっすらと何日前のものか分からないトレースが残っている。少し新雪が積もっているが、この時期になると下はしっかりと底のある雪なので、ラッセルというほどのこともなく軽快に登ることができる。ペースを押さえ気味に登るが、時計と高度計で計ると上昇率が毎時400mほどになっていることが分かる。今日は長丁場でもあり、自分としてはちょっと速すぎるペースだ。ソロだと自然に速くなりがちなので、意識してペースを落とすようにする。
 8時06分に再びスカイラインを横切る。この辺りもすっかり除雪が完了している。午後から雨との予報だったので、今日は午前中勝負と思っていたのだが、早くもポツポツと細かい雨が降ってきた。雪はいいが雨はご免こうむりたい。何もかも濡れてしまうのは辛い。さりとてぼやいてもどうなるものでもない。自分に出来るのは黙々と登り続けることだけだ。幸いまだ風が無いので、それだけは助かる。山鳥山まで来たのでザックを降ろし、初めての休憩とする。晴れていれば見えるはずの家形山は、薄墨色の雪雲に覆われている。雪に埋まっている井戸溝の橋を渡り、慶応吾妻山荘分岐を過ぎる。ガスが薄れてある程度視界があるが、家形山は見えずに風の唸りが聞こえてくるだけだ。
 標高1700mほどの大根森まで登ると、雨が雪に変わりいつもどおり風が強くなる。固いバーンの急登をひと登りすると、五色沼の大岩に到着。ここは風の通り道でより強くなるが、これはいつものことで慣れている。眼前にあるはずの家形山も、眼下にあるはずの五色沼もまったく見えない。家形山へのコルは雪が付いていないので、スキーを外して歩く。ホワイトアウトに近い状態で、家形山の斜面状況はよく見えなかったが、ジグを切りながら登っているうちに肩に到達。ここまで来れば、今日の残りの行程での登りはさほど無い。家形山の三角点(1,877m)があると思われる辺りまで移動し、昼食休憩とする。時刻は11時03分で、スタートからちょうど4時間が経過していた。計画よりだいぶ速い。樹林帯なので風に直接吹かれないのが嬉しい。
 家形山から先は、夏道も歩いたことのない領域となる。家形山は山頂が平坦で明瞭な尾根となっていない。概ね西へと進めばよいのだが、進路を邪魔する樹林と雪のうねりを避けながら、細かく進路を変えて歩くことになる。コンパスで方位を確認し西へ進んでいるつもりでいたが、どうも様子がおかしいと気付いた。GPSで確認すると、いつの間にか進路が北に向かっていてルートをだいぶ外れているではないか。慌てて進路を修正してルートに戻るが、15分ほどのロスとなってしまった。自分はあまり方向感覚がある方ではないのだが、それにしてもお粗末であり、GPSを持っていてもこれでは意味がない。気を取り直して進むと下り斜面となるが、シールを付けたまま進む。地形図では夏道の付いている明瞭な尾根となっているはずだが、なぜか北側斜面にずれてしまい進路修正がなかなか上手くいかない。しかたなくそのままニセ烏帽子山とのコルまで進むことにする。少し登り加減となり、もうニセ烏帽子山の取り付きに来たかと思ったが、前方におぼろげに岩山が見えてきて様子が違うことに気付く。またしても縦走ラインから北へずれ、兵子(ひよっこ)のほうへ進んでしまったのだ。ガスで視界があまり無いとはいえあまりにもお粗末で、疲れにせいにばかりは出来ない体たらくにがっかりする。どこでも歩ける雪山だが、しょっちゅうGPSとにらめっこしながら歩くわけにも行かず、やはりこまめにコンパスを確認するのが一番だろう。事前アドバイスに従い、稜線に雪庇が発達しているニセ烏帽子山は南斜面をトラバースする。
 ルートミスもあり、家形山からここまで予想以上に時間がかかっている。前半の貯金もなくなってきた。そろそろ雪洞の設営場所を探さなければならない。次のピークである烏帽子山とのコルで、北斜面に出来た雪庇が雪洞に適しているように思えた。時刻は13時40分で場所と時間もほぼ計画通りなので、ここに雪洞を掘ることにする。自分がこれまで雪洞を作ったのは、2年前の会山行でのたった1回だけ。しかも他のメンバーと分業で掘った経験しかない。しかし、子供の頃の豊富な雪遊び経験から、自分はできるだろうと変な自信がある。掘り始めると中は少し固いが、その代わりしっかりした雪洞ができそうだ。雪洞の崩落は危機を招くので、掘る場所と雪質の選定は十分吟味したい。雪庇の前は急斜面なので、掘った雪を放り出すと勝手に下へ落ちてくれ楽ができる。寝床にザック置き場と棚も作り、1時間40分ほどで雪洞は完成した。失敗だったのは手袋で、作業中にずぶ濡れにしてしまったうえに、予備手袋を持ってこなかったのだ。ゴム手袋を持ってくるべきだったと思うも、時既に遅しだ。
 雪洞にこもると実に静かで、その狭さが逆に包み込まれたように快適に感じる。さしずめ穴ごもりした獣の気分だ。ひと缶だけ持ってきたビールでひとり乾杯をする。相手もいないのに「乾杯」と口にしてみたりする。喉に染みわたる美味さは格別なものがある。ペットボトルに詰めてきた焼酎を、ちびりちびりお湯割りにして飲む。夕食は餅入りラーメン2玉だ。入口を塞いだツェルトを透して入っていた外の光も無くなり、ヘッデンを点ける。雪洞の中からdocomoが問題なく通じるので、会と友人へメールを送る。あとはもうすることが無く寝るだけだ。18時30分過ぎに寝袋に潜り込むと目を閉じた。時折聞こえる風の音が子守歌のようだ。

3月9日写真 写真は拡大して見ることが出来ます
朝から風雪でガスっている 烏帽子山南斜面のトラバース 正面に昭元山がかすかに見える
雪原の広がる弥兵衛平 天候が回復してきた 県境尾根が姿を現した(手前から藤十郎・中大巓・天狗岩凡天岩・西吾妻山)
中大巓への斜面 中大巓の南斜面からの西吾妻山 凡天岩への登りで振り返ると中大巓の向こうに蔵王連峰が一望
凡天岩の向こうには越えてきた家形山〜昭元山〜東大巓 樹氷の西吾妻山 残っていた古いツアー標識
飯豊連峰も一望できた 若女平コースを下る 樹氷の向こうに西大巓
樹林帯を滑る ツアーコース表示板 若女平で歩いた稜線を振り返る
細尾根の状況 藤右ェ門沢の橋 除雪終点に到着

行動記録
 早く寝たせいもあり、22時過ぎに1度目が覚め、2度寝したが1時半頃にはもう寝られなくなった。それでも寝袋に入っていたが、小用をもよおしたこともあり3時半には寝袋を這い出る。雪洞の中は外気温にかかわらずほぼ0度前後を保つので、自分の薄いシュラフでも耐えられる。そのかわりストーブをいくら焚いても、周りが全部雪なので、0度よりそれほどプラスにはならない。今朝の外気温を計ると−5.5度で、標高を考えるとそれほど冷え込んではいない。五目ご飯の餅入りおじやの朝食を食べ、まだまだ時間があるので手袋をストーブにかざして乾かす作業に没頭する。
  15時間を過ごした雪洞から出ると、外は吹雪に近い感じで雪が降っている。スキーを履き、6時24分にスタートする。歩き出してすぐ、標高1800mほどで烏帽子山の南斜面トラバースに入る。山腹を回り込んで行くと、昭元山のシルエットがぼんやりと見える。昭元山とのコルを越え、鏡沼らしき低地を右に見て昭元山の北斜面トラバースに入る。とりあえず同じ高度を保ちながら兜山とのコルを目指すが、思ったような最短ルートでは歩けない。目標となる稜線やピークが見えないことが、ルート選定をさらに難しくしている。兜山の南斜面トラバースから東大巓へと向かうと、樹林帯を抜け広い平坦な地形となる。風はなお強く、ホワイトアウトまではいかなくとも視界が利かない。東大巓が少しでも見えれば進路は容易にわかるが、今はGPSと地形図にコンパスが頼りだ。逆にそれらがなければ進退窮まってしまうだろう。現在地を知るには最強のツールであるGPSだが、低温下でディスプレイ表示をさせて操作を続けると以外に電池の消耗が早い。すでに昨日から2セット目の電池だが、残量が半分以下になっているので本当に必要なとき意外は見ないようにしている。だから、地形図とコンパスと首っ引きで進むので、おのずと歩みも鈍くなってしまう。体を押しとどめるかのように西から吹き付ける風になおさら体力は奪われ、ゆっくりと歩いているのにハアハアと息が荒くなる。
 予定ルートからだいぶ外れながらも、東大巓の南斜面をトラバースして弥兵衛平に入ることが出来た。天元台からここまでは以前歩いたことがあり、張りつめていた気持ちも少し緩んできた。弥兵衛平を歩いていると、雲が薄れて日が差し始め急速に天気が回復してきた。ほどなく眼前に吾妻連峰の峰々が姿を現した。藤十郎〜中大巓〜西吾妻山〜西大巓と丸く穏やかな稜線が白く輝いている。後ろを振り返れば家形山から東大巓、一切経山や中吾妻山などが一望できる。この光景を独り占めなのがまた何とも贅沢だ。今日は眺めも無く、ただ修行のような縦走も覚悟していただけに、このサプライズには心が躍った。疲れは足に溜まっていたが、最後まで歩き通してやろうという意欲も湧いてくる。今日はツアーパーティーがなかなか来ないなと思いながら藤十郎を過ぎ、中大巓のクジラ尾根を登っていると、11人パーティーが下りてきた。声をかけられ天元台のリフトの運転開始が強風のため遅れたのだと聞いて納得する。
 中大巓を大きくトラバースしながら、西吾妻、そして手前の凡天岩天狗岩の斜面を眺めると、樹氷の森に見え隠れしながら登っていく3パーティーが見えた。自分も亀の歩みでゆっくりと近づいていくと、崩れ始めているのではと思っていた自分の予想に反し、まだまだ見事な樹氷が出迎えてくれる。頑張って歩いてきた苦労が報われたような気持ちだ。とはいえ弱くなってはきたが相変わらず風は吹いており、自分の足取りは重い。やっと凡天岩を過ぎると、西吾妻山とのコルへと下っていく。西吾妻山へと登っていく5〜6人のパーティーが見える。後で分かったのだが、これはTさんのパーティーだった。しかもGさんはタッチの差で若女平へと滑り降り、向こうに見える西大巓にはYさんがいたという。知り合いが西吾妻山周辺に集まっていたことになる。
 若女平コースへと進路を変える辺りで休憩し、昨日の朝からずっと貼りっぱなしだったシールを剥がす。ここまで休憩らしい休憩も取らずに歩いてきた。今日初めて行動食を口にする。さて、やっと滑ることができるのだが喜んでもいられない。何しろ疲れ切った足は、思うようには動いてくれそうもないのだ。上部はまあまあの雪質だが、太腿がパンパンの足は踏ん張りがきかない。少し滑っては休み、少し滑っては転倒となかなかはかどらない。標高を下げると雪が腐って重く、さらに何度も転倒することに。緩斜面の若女平では先行者のトレースに乗せ、なんとかスキーを走らせる。
 細尾根を慎重にクリアして、最後の急斜面を横滑りで下りる。橋を渡って最後のひと頑張りをすると、15時13分除雪終了点に到着した。帰路は白布温泉から16時43分発の山形交通バス(920円)に乗る。バスを待っていると、スキー客が珍しそうにこちらを見ていく。奥羽本線米沢駅までは40分ほどで着く。17時46分発の電車で福島市の庭坂駅(570円)へ。18時23分庭坂駅に到着すると、ホームに出て待っていてくれた会のKさんに高湯温泉まで送ってもらう。自宅には午後8時頃到着し、長い2日間のツアーが終了。達成感というよりは、終わったという安堵感に浸りながらビールを喉にどんどん流し込む。この山行で4キロ以上減少した体重だが、この調子では元に戻るのも早いだろう。(K.K)

概念図

トラック 登り=赤 下り=青


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