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No.5179
朝日連峰・金目川左俣 祝瓶山 荒川水系金目川
山行種別 無雪期沢登り
あさひれんぽう・かなめがわひだりまた 地形図

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山行期間 2015年9月21日(月)→23日(水)
コースタイム 9月21日
駐車地点(9:10)→在所平橋(9:20)→岩魚小沢出合(10:34)→モチア沢出合(11:20)→魚止滝(12:40)→テン場(13:08)
9月22日
テン場(6:35)→二俣(6:39)→第1ゴルジュ帯(7:23〜7:53)→第2ゴルジュ帯(9:15〜9:40)→2条10m滝(10:40)→20m滝(13:48)→奥の二俣(14:39)→10m滝(16:22)→登山道(19:21)→テン場(21:14)
9月23日
テン場(6:33)→登山口(6:47)→デポ車(6:53)
写真 写真は拡大してみることが出来ます
林道から祝瓶山が見えた 金目川に架かる在所平橋 入渓
流れは穏やか 大岩も出てくる 平瀬が続く
岩魚小沢出合 モチア沢出合にあったテント 沢の表情が変わる
小滝を越える 魚止滝(5m) 右壁を登る
逆くの字滝(5m)には流木が突き刺さっていた 滝上のテン場 左岸斜面を登ると見えた祝瓶山
美味かった!
幕営準備完了 イワナをさばく
焚き火は最高のご馳走
朝のテン場 穏やかな二俣(2:3)
左俣へ入る 短いゴルジュの滝 テン場可能地点
小滝はいずれも容易 ステミングで越える 滝は小さいが岩はツルツル
どうやって登るか頭をひねる 結局シャワーで登る 廊下を進む
空身の大開脚ステミング スリットのような面白い形状 空身でへつる
フリクションで登る 井戸の底ゴルジュの入口 細く曲がりくねる
ここを越えられなければ敗退するしかない 不思議な空間 こんなこと自分には無理
左岸の枝沢を見送る 正面ルンゼは枝沢だ 右へ直角に曲がる
左の水流沿いにロープを延ばす ダムの放水のような上の10m滝 滝上に出る
7m滝の巻きは悪かった ゴルジュの流木 3mCS滝はシャワーで
20m滝は左岸巻き 奥の二俣の左俣に降りる 青空と尾根筋が見える
8m滝 結◯君の初リード 今度は◯樹さんのリードで6m滝
トイ状5m滝 10m滝 今度は自分がリードする
源頭部を詰め上がる 8m滝(17:22) 祝瓶山の山頂シルエット(17:58)
夜の帳が下りる 登山道に出た 荒川沿いまで下る
登山道脇でビバークした 荒川の吊橋を渡る 登山口

行動記録
 金目川は朝日連峰の荒川の支流であり、祝瓶山の西面を源とする。昔はあったという塩の道が山の中に消えてしまってからは、金目川の上流部に入ることはかなり大変であったようだ。しかし、大規模林道の開発により中流部からのアプローチが容易になり、遡行者が増えたという経緯がある。金目川は上流部で右俣・中俣・左俣と別れるが、遡行記録を見かけるのは中俣と左俣である。いずれの上流部にも深いゴルジュが続くようで、特に左俣のゴルジュは「井戸の底のような」と表現されるほどのものらしい。金目川は自分にとっては難度が高く、期待半分不安半分ではある。しかし、先延ばしして来年などとは言っていられない。行けるときに行ってみようと挑むことにした。
9月21日
 下山の車をデポするため針生平に入っていくと、路肩に停めてある車が多い。釣り人が大半と思われるが、関東圏のナンバーが目立つ。シルバーウィークの遠征ということなのだろうが、こんなに車の多い針生平は初めてである。結局林道末端には停められず、100mほど手前に車をねじ込んだ。引き返して五味沢地区から大規模林道へと進む。集落外れで大滝沢に架かる橋を渡るとゲートがあり、開いていたのでホッとする。ゲートが閉まっていれば2時間の歩きを覚悟せねばならない。山腹を縫うように高度を上げ、小枕山トンネルを抜けて1キロほどでバリケードがある。ここには小枕山の登山口もあり、路面はかなり傷んでいるが車を停めるスペースがある。3台の先客があり、その先に車を置くことにした。
 沢支度をして少し歩くと金目川にかかる在所平橋だ。バリケードを動かして進入したらしい車が1台あった。大規模林道はこの橋の少し先で行き止まりとなる。建設途中で中止となったのだ。大規模林道には様々な問題があり、ここのように建設中止になったものも多いが、この道があるので金目川上流域に我々でもアプローチできるようになったともいえる。左岸の橋のたもとから下降し入渓。川幅もありやはり「川」である。釣り師の結◯君にはひとり先行してもらい、ゆっくりと遡行する。しばらく平瀬と河原をのんびり歩いていく。途中で川が狭まり淵もあるが、腰まで浸かる程度で難しいところはない。大岩の区間もあるが長くは続かない。結◯君に時々追いつくが、魚影も少なく釣れないという。足跡があるので先行者がいるのだろうと思っていたが、案の定モチア沢出合にテントが張ってあった。テント周辺に生活感があるが主はいない。その先も平瀬がしばらく続く。時折キノコを見かけるが毒キノコのツキヨタケばかりだ。
 両岸が狭まりやっと変化が出てきたところで、下ってきた釣り師2人組に遭遇。さっきのテントの主で魚止滝まで行ってきたとのこと。どうりで釣れないわけだ。先に進むとやがて魚止滝が現れる。手前は大きな釜だが、岩クズでほとんど埋まっていて浅い。テン場になりそうなスペースもある。魚止滝5mは右壁を登るが、水流寄りのラインが容易。すぐ上の逆くの字になった5m滝も右壁を登る。今日初めて少しだけ仕事をしたような気になる。滝上に出るとすぐ左岸に恰好のテン場があった。ここで泊まらずしてどこで泊まるというようなテン場で、まだ時間は早いがはやばやとザックを下ろすことにする。
 結◯君には食料調達に行ってもらい、タープを張り焚き火を起こす。しばらくキノコを探したが見つからず諦める。午後4時には乾杯。結◯君が釣ってきた岩魚の刺身が美味い。盛大な焚き火を囲んで飲み食べるのは、最高に贅沢な時間だ。沢音を聞きながら満天の星空の下で眠りにつく。
9月22日
 テン場をたたんで午前6時35分に出発すると、すぐ二俣に着く。1:2で水量の多い右俣は、この先でさらに中俣と右俣に分かれる。今回遡行する左俣へと入る。10数分歩くとゴルジュで、2mの滝を2つ越すと沢はまた開ける。二俣から20分ほどのところで右岸に平場があり、少しの整地でテン場になりそうだ。枝沢もあり水も取れるので好都合。3〜5mの滝をいくつか越えると、両岸は狭まり立ってくる。右岸スラブから小沢が落ちると、いよいよゴルジュ帯に突入する。
 岩は水流で磨かれ凹凸が少なく平滑だ。小さな釜と小滝をステミング(足や手での突っ張り)で越え、続く滑り台のような小滝を微妙なフリクションを探りながら登る。関節が固くて体重80キロの自分にとって、こんな登り方は苦手である。若い結◯君は沢登り経験こそ浅いが渓流釣りで沢には慣れており、持ち前の長い手足でスルスルと越えてしまう。スリムで身軽な2人が先行し、自分は後から追いかけるパターンとなった。洗濯機の中のような小滝をシャワーで越え、手を広げた幅しかない廊下を通る。4m滝は◯樹さんが空身で大開脚して突破、お助けを出してもらう。釜のある3m滝を越えると両岸が少し開け、第1ゴルジュ帯を抜けたようだ。体はすっかり濡れて冷え、陽の当たらない沢底では寒くなってくる。
 斜めに傾いた幅1mも無い岩のスリット(細長いすき間)を抜ける。ここの増水したときの様を想像すると興味深い。高さ数m程度の小滝が続くが、どの滝も磨かれた岩で手がかりに乏しい。ショルダーや空身でのへつりなどで、ひとつひとつ越えていく。やっと沢床にも日が差すようになってきたので、陽だまりでひと息つく。その後はまた沢が狭まる。つるつるの3m斜滝を2つ登ると、いよいよ第2ゴルジュ帯に入っていく。ここのゴルジュがいわゆる「井戸の底のような」と表現されているゴルジュだ。水の流れによる自然の造形で、沢は狭く迷路のように曲がりくねり深く穿たれている。岩は磨かれ妖しく滑らかな肌を見せている。声を発せば反響しながら、上に見える小さな青空に吸い込まれていく。、まさに井戸の底のようでもあるが、自分には大地の裂け目から地底に迷い込んだようにも思える。こんな場所があるとは…ここに来て実際に見て感じた者でなければわかりようもない。ふと気付く、増水すれば逃げ場はまったく無いことに。その時は押し流されるしかないのだ。感嘆してばかりもいられない。このゴルジュを抜けなければならないのだ。進むと4m直瀑が現れた。◯樹さんが空身で突破し、ロープを出してくれる。彼がいなければどうしただろうかと思う。次の3m滝を先行2人は大開脚のステミングで突破。同じことは無理と悟った自分は、シャワーで直登する。この滝を過ぎると沢は少し開ける。30分ほどで第2ゴルジュ帯を抜けたようだ。抜けたと言っても以前沢は狭く深い。
 8m滝を左から登り、6m滝を右から越える。左岸を30mほどの高さから伝い落ちる支沢を見ると、沢は左へ曲がる。直線で廊下のような沢を進むと、正面のルンゼへと沢は駆け登っている。近づくとそれは枝沢で、本流は90度右から滝で落ちている。間が離れた2条の10m滝で、その上は10m滝で落ちている。上の滝はダムの放水のように前に水を飛ばしていて、平水時にこんなに飛ばす滝はあまり見たことがない。この滝下で時刻は10時40分。その気になればテン場にもなりそうな余地はあるが、ここでこの時刻であれば余裕で今日中に稜線に抜けられると思った。また、ゴルジュ帯を無事抜けられたことで、核心部が終わったような気もしていた。しかし、それはちょっと甘い考えであったことは後で知ることになる。2条の滝は左の水流沿いにロープを延ばして登り、上の滝は右から小さく巻いて沢に戻る。
 滝上に出ると穏やかな渓相になる。830m辺りではテン場になりそうな所もあった。しばらくは穏やかな沢歩きが続くが、やがて7m滝に突き当たる。記録によるとシャワーで登られているようだが、また濡れるのを嫌った我々は右岸から高巻こうと取り付いた。しかし、斜度がかなり立っているうえに、グズグズの泥壁で非常に悪い。さしもの◯樹さんも難儀している。途中に古いシュリンゲもあったので、他にも巻いているパーティーはいるようだが、この滝はやはり直登するべきのようだ。結◯君には滝上からロープを垂らした。この滝で約80分も使ってしまったのは大誤算であった。4m滝を越えるとまたゴルジュになり、前方に大滝が見えている。詰まった流木を乗り越えるとチョックストーンの3m滝で、ハングしているので流れの中に打ったハーケン1枚を足がかりに越える。大滝は20mほど。登った記録もあるがここは左岸からの巻きだろう。浮き石の多い斜面を登り、ブッシュ帯へと入り急斜面をトラバースする。ここの巻きはパーティーにより1時間から3時間と差があり、ルートは慎重に見極めたいところだ。我々は巻き始めてから50分ほどで、奥の二俣のすぐ上で右俣に降りることができた。左俣へ移って遡行を再開する。
 午後も3時近くなり時間が気になる。しかし、まだこの時点では、何とか暗くなる前に稜線に出られるだろうと思っていた。小滝を越えていくと青空と尾根筋が見えてきて、もう少しだという気にもなった。5m斜滝を登ると8m滝が立ちはだかる。この滝を結◯君が初リードで登ってくれた。次の6m滝は左端が水流で右はスラブ壁だ。取り付いたが滑るので一筋縄ではいかない。◯樹さんのリードで突破したが、ここでも思いの外時間を使い午後4時を過ぎてしまった。後から考えれば空身で水流沿いを登れたようにも思える。時間的に少々焦りを感じるが、こういう時こそ慎重にやろうと自分に言い聞かせる。トイ状5m滝を登ると10m滝が現れる。まだ滝が出てくるのかと思うが、登らなければ沢を抜けることは出来ない。この滝は気合いを入れて自分がリードしたが、3人が越えるのに30分ほど要した。どんどん時間が経過してしまい午後5時も近い。ビバークも考えたが、ここまで登るともはやテン場になりそうなところは見当たらなくなっていた。最後はヘッデンになるかもしれないが、このまま稜線に抜けようと決意する。
 沢は源頭部の様相で、細く筋状になり両側は草付きの急斜面だ。このまま詰めれば抜けられると思ったところに8m滝が現れた。上にはチョックストーンのような岩が乗り、左壁はもろく右壁はツルツルと嫌らしい。あれこれ試したが、結局ハーケン1枚でシュリンゲを足がかりに越える。とにかく登り続けるが、急に薄暗くなり始めてきた。もう限界とヘッデンを点けたのが午後6時頃。視界はヘッデンの照射範囲のみなので、見えればなんでもないのかもしれない小滝に難儀する。一時はここで3人腰掛けてビバークかと思うこともあったが、◯樹さんが何とか越えてくれた。彼には助けてもらってばかりである。右を見れば月が光っている。左を見れば星が瞬いている。ヘッデンでの沢登りは初めてではないが、滅多にあるものではない。最後は15分程度のヤブこぎになり、いつの間にか登山道と平行に歩いてしまうというアクシデントもあったが、午後7時21分に稜線の登山道に出た。山頂でビバークも考えたが、水の補充を失念しており、吹きさらしでの寒さを懸念して下山することにした。登山道を駆け下り、荒川沿いになったところで午後9時14分行動停止。登山道脇でビバークすることにした。タープを張り食事を済ませると、残った酒を飲み干す。日付が変わらないうちに眠りについた。
9月23日
 明けて23日。暖かくてぐっすり眠ることができた。タープを撤収した頃、ポツポツと今日の登山者が登って来る。歩き始めると20分ほどで一昨日デポした車に到着。大規模林道へと回って車を回収する。道の駅いいでで朝からやっている食堂があり朝食。飯豊町のがまの湯(400円)で3日間の汗を流して帰宅した。
 今回の沢登りでは、自分の経験不足、技術不足を痛感。自分にとっては難度が高い沢と自覚していたが、やはりそのとおりであった。22日は無理して詰め上がらずに、早めにビバークの判断をすべきだった。翌日に余裕を持って登れば、そんなに苦労しなかっただろうと思われる。いずれにしても、経験してみなければ物事の本当のところはわからない。金目沢左俣ではルートさえ間違えず、チーム力を十分生かせば、突破できないような悪場は無い。そのときに応じてビバークポイントは変わるだろうが、3日間たっぷりかけるつもりで取り組めば、我々のようなパーティーにも遡行を許してくれる沢であった。それにしてもあのゴルジュは忘れられない。沢屋を自認する方であれば、ぜひとも一度経験してもらいたいゴルジュだった。(K.Ku)

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