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No.5004
朝日俣沢岩魚止沢 朝日連峰 朝日川
山行種別 無雪期沢登り
あさひまたさわういわなどめさわ 地形図

トップ沢登り>朝日俣沢岩魚止沢

山行期間 2014年8月30日(土)〜31日(日)
コースタイム 8月30日 駐車地点(8:20,8:27)→朝日鉱泉(9:10)→二俣(10:42,10:58)→檜沢出合(11:40)→ミカゲ沢出合(11:50)→二俣・上ノ大沢出合(12:41)→テン場(15:07)
8月31日 テン場(6:20)→撤退決定(7:58)→休憩(10:47,11:15)→登山道(12:14,12:32)→大朝日岳(13:51,14:05)→長命水(15:21,15:58)→二俣(16:28)→朝日鉱泉(18:00)→駐車地点(18:40)
写真 写真は拡大してみることが出来ます
朝日鉱泉手前2.5km(実測3km)より歩く 朝日鉱泉 登山口
二俣(朝日俣沢:黒俣沢) 朝日俣沢に入る 最初の小滝
4m滝は手前の右岸を巻く 檜沢出合 5m滝で落ちるミカゲ沢とその先の小滝
上ノ大沢出合の二俣 上部ハングの6m滝(ロープ) 6m滝(ロープ)
ゴルジュ奥の7m滝は右壁を直上してトラバース(ロープ) 10m滝は右岸を高巻く 5mナメ滝
8m滝は左岸より巻く 930mで沢が開けた 焚き火は最高のご馳走
8m滝を右岸より巻く 突然雪渓が現れた 雪渓を上から見る(下ノ岩魚止沢が左岸を落ちてくる)
上流部の雪渓 ヤブ漕ぎ中のS君 登る予定だった岩魚止沢が見える
やっと稜線が近づいた 大朝日岳に登る 大朝日岳山頂

行動記録
8月30日
 この週末も天気が不安定だ。今年は天気のサイクルがおかしい。いや、それは人間の勝手な都合であり、天気のサイクルというものがあったとしても、人間の営みなんて自然の知ったことではないのだ。とはいえ天気に振り回される身としては、やきもきしながら天気予報をチェックするしかない。なぜなら、30日31日と飯豊七滝沢の沢登りを計画していたからだ。ギリギリ前日の夕方まで天気予報と相談したが、七滝沢のある二王子岳方面はどうにも天気が良くない。前線が日本列島に横たわっているのだ。もしかすると平地は降らないかもしれないが、山では雨に打たれながらの行動になる確率の方が高いように思えた。さんざん迷ったが、天気が比較的良さそうな朝日連峰に転進することにした。沢は朝日連峰としては入門の沢と言われる、朝日俣沢岩魚止沢に登ることにした。朝日俣沢は初めて遡行するのだが、時間もないのでネットで何本か記録を斜め読みし、ルートを確認すると計画書を作成してメンバーに送信するのがやっとだった。読んだ記録には雪渓についての記述もあったが、遡行できなくなるようなものではなかった。8月上旬の記録もあったので、今回雪渓が少々あったとしても何とかなるだろうと思ったのだ。
 午前4時半にS君と合流し、途中でTさんを拾って朝日鉱泉へと向かう。長井側から朝日川沿いに木川ダム経由で入ろうとしたが、途中で通行止めとなり愕然とする。まったくの事前調査不足である。戻りながら探すと、Asahi自然観経由で行けると判りホッとする。結局30分以上のロスとなってしまった。山毛欅峠に出て朝日鉱泉へ向かうと、全面通行止めの看板があるが無視して進む。しばらく走ると、今度は本当に通行止めになる。現在、朝日鉱泉までは直接車で入れない。林道の災害復旧工事を行っているためで、2.5km手前(実測では3km)の道路脇に車を置くことになる。朝日鉱泉の宿泊者の場合、連絡すれば車で迎えに来てくれるようだが、我々はザックを担いで歩くことになる。今朝は曇りだが雨は降る様子もなく、まずまずの天気に転進して良かったと思う。しばらくぶりの朝日鉱泉の前を通り、吊り橋まで下ると登山口になる。朝日川沿いの登山道を歩いていくと吊り橋を2度渡り、1時間半ほどで二俣に着く。朝日川はここから朝日俣沢と黒俣沢に分かれる。
 朝日俣沢に入るとすぐ小滝があり、次の4m滝を右岸(Tさんは左岸)より巻くと、その先はしばらくゴーロが続く。魚影は濃いが残念ながら禁漁区だ。やがて左から檜沢が出合い、さらに150mほどで左から滝でミカゲ沢が出合う。そのすぐ先に小滝があるが、直登は難しいようなので右岸から小さく巻く。再び明るいゴーロが続く。左から下ノ大沢が合わせるはずだがと地図を見たときは、既に気付かず出合を通り過ぎた後だった。やがて二俣になっている上ノ大沢出合だが、ここまでは難しいところもなく拍子抜けするほどだ。
 さらに10分ほど遡行すると6m滝に突き当たる。上部がハング気味だがTさんが左壁を登り、S君にはロープを出す。自分は右岸から小さく巻いた。すぐ次の6m滝も、Tさんがロープを出して左壁を登りS君を確保。自分は左岸を巻いたが、沢に下りるのにちょっと手間取る。ゴルジュの奥にかかる7m滝はヌメる岩が嫌らしい直瀑だ。ここもTさんに右壁からロープを出して登ってもらう。今回はすっかり楽させてもらっている感じだ。ただしここは、左岸を巻いた方が時間的には早いだろう。10m滝を右岸より高巻き、5mナメ滝を越え、次の8m滝を左岸より高巻くと、その上は開けて広い河原になる。正面には10mの直瀑がかかり、ここが他の記録にもある940mのテン場だと思われた。これより上にテン場適地は少ないとのことであり、時刻も午後3時を過ぎているので、ここでザックを降ろすことにした。左岸を整地してタープを張っていると雨が降り出した。見ていると滝の水量が増えたり減ったり、目まぐるしく変化する。しばらくすると雨も上がってひと安心。焚き火を起こしてビールで乾杯。各自のつまみも美味いが、焚き火が何よりのご馳走になる。明日の沢登りに思いを巡らせながら、午後8時過ぎシュラフに潜りこんだ。
8月31日
 午前4時50分にS君に起こされた。そそくさとアルファ米で朝食を済ませると、テン場を撤収して出発。朝から青空が広がり、思ったより好天なので気持ちも高揚する。さて10m滝は右岸からの巻きだ。滝に近いところから斜上して小さく巻こうと思ったが、草付きの泥が滑りあまり良くない。いったん降りて少し大きく巻き直した。先頭のTさんが滝の落ち口に降りていかないので声を掛けると、もう少し先まで行ってから降りたいのだという。ならばと後を追うとTさんが立ち止まっていた。どうしたと声を掛け彼の視線の先を見ると、驚くべき光景がそこにはあった。雪渓だ。深い谷底で左に屈曲する沢の入口で雪渓はトンネルとなり、ドームのように沢の上部空間を覆っている。沢底から雪渓の上面までの高さは15mほどもありそうだ。雪渓の縁には今にも落ちそうな大きな岩が、かろうじて引っ掛かっているのも見える。その上で左岸から雪渓へ突き刺さるように落ちる沢は、下ノ岩魚止沢のようだ。ある程度の雪渓は予測していたのだが、それは沢床に崩れ落ちた雪渓程度だったのだ。その年によって雪渓の状況は大きく異なるのだろうが、これほどまでとはと唸るしかなかった。運を天に任せて雪渓のトンネルをくぐり抜ける方法もあるだろう。しかし、長さも判らない、いつ崩れるかも判らない真っ暗なトンネルだ。そこに飛び込むほどの蛮勇は持ち合わせてはいない。これまでの沢登りではあまり感じたことのなかった感情が湧き上がる。恐ろしいと。これは高巻くしかないということで、このまま右岸の急斜面を登ることにした。
 ある程度登ると崖の縁に出たので沢を見下ろしてみた。直下はまだ雪渓だ。沢からの高さは50mはありそうだ。少し先のルンゼから懸垂下降で降りる場合、30mロープを連結しても3ピッチの懸垂下降になりそうである。しかも、ピッチを切れるような場所があるかどうかも判らない。沢がS字に屈曲しているので上流の状況が見えないのと、この先のルンゼを越えれば右岸の斜度が緩むので、細尾根をさらに先に進むことにする。雪渓が残っているのは、両岸が狭まったこの屈曲部だけであってくれと思いながら。ヤブを漕ぎリッジを渡る。小尾根をトラバース気味に回り込み、上流が見えた瞬間愕然とした。雪渓が上流部も延々と覆っているではないか。しかも、所々崩れて大穴が空いている。アイゼンを持ってこなかったので、斜度のある雪渓を歩くのはスリップのリスクがある。いや、それ以前に崩落の可能性もある。雪渓をよじ登ったり下降したり、高巻きも必要となるだろう。ここからなら沢まで下降することは難しくはないが、そこからの雪渓処理の時間がまったく読めない。頑張れば抜けられるだろうか、いやいや、リスクがありすぎる。様々な考えが頭をよぎる。そうこうしているうちに不気味な音が沢から聞こえた。雪渓が崩壊した音だ。これが決定的だった。我々は、いや、少なくとも自分は臆したのだ。エスケープ以外に考えられなくなった。時刻はまだ午前7時58分。なんということだ。結局、立ち止まって考えている間に、雪渓の崩壊音は3度も聞こえてきた。
 退却すると決まればルートをどうするかだ。登ってきたとおりに戻るか、違う沢に下降して稜線まで登るか。それともこのまま尾根をヤブ漕ぎして稜線まで抜けるか。しかし、雪渓に打ちのめされた我々は、戻るにしても何にしてももう沢に降りる気持ちにはなれなかった。尾根をヤブこぎして稜線へエスケープすることにしたのだ。この尾根は平岩山へと続き、地図上の水平距離は1.2kmほどだ。ヤブ漕ぎは時間を読みにくい行動であるが、まだ時間も早いので、このくらいなら何とかなるだろうと思えた。しかし、問題があった。こうなるとは思っていなかったので、水の手持ちが不足している。3人合わせても2リットルしかないが、水場にたどり着くまで何とかするしかないと覚悟する。樹高が背より高いうちはまだよかったが、中途半端な高さになると掻き分け掻き分け進むようになる。さらに標高が上がると灌木になり、頭が上に出て見通しがきくようになる。登る予定だった岩魚止沢がよく見えてきた。あそこを登れれば気持ち良かっただろうと思わずにはいられない。リトライを心に決めてまたヤブとの闘いに戻る。天気はといえば晴れてはいるが、思いの外カラッとして蒸し暑くないので助かる。水をなるべく飲まずに節約しているが、登れば汗が出るのは致し方ない。やがて灌木に五葉松が多くなり、さらに笹に変わりながら稜線の近くまでヤブ漕ぎは続く。最後に草付きの斜面を登ると、平岩山山頂の少し南東稜線で登山道に出た。結局今日は、今朝テン場上の滝を巻き始めてから一度も沢を歩くことがなかった。延々6時間もヤブ漕ぎしていたことになる。自分の山人生(まだ7年目だが)最長のヤブ漕ぎだった。喉の渇きに耐えかね、後はどうなれと最後の水100ccを飲み干した。もう水は一滴も無くなった。
 下山は大朝日岳を経由し、中ツル尾根を下降するルートとした。朝日俣沢を挟んで反対側の、御影森山のルートよりは標高差も距離もある。30分以上余計にかかるだろうが、今日は大朝日岳に登るつもりでもあったのであえてそうした。自分以外の2人は大朝日岳が今日初めてということもある。大朝日岳への登りは汗が噴き出て、ひからび始めた体には辛かった。それでもTさんはサクサク登っていく。何という体力だ。道の脇にはガンコウランの実があったので口に入れる。わずかばかりの甘味と水分だが、今の体にはそれでも有り難い。やっと登った大朝日岳だが、ガスで眺めは得られなかった。水を分けてもらおうにも、他には誰もいない。そうとなれば中ツル尾根をひたすら下り、途中にある水場を目指すしかない。もはや口の中は粘つき乾き始めている。登山道にある大量の熊の糞に驚きながら駆け下る。たどり着いた長命水と呼ばれる水場は、登山道から5分ほど下ったところにあった。わずかな量しか出ておらず、汲むのに10分もかかってしまった。しかし、湧水の水は冷たくて体に染み渡り、文字通り生き返るような感じがする。二俣の吊り橋を渡り、朝日鉱泉は午後6時。そこから40分で駐車地点に到着。ギリギリヘッデンを使わずにすんだ。長い1日が終わった。
 さて、2日目はまったく遡行できずに敗退となった。こんな事は初めての経験だ。入門の沢といっても、やはり朝日の沢は朝日の沢だ。来てみなければ雪渓の状況は判らないとはいえ、明らかに調査不足、経験不足、力量不足であった。しかし、学んだことも多かった。この経験を基にいずれリトライしてみようと思う。なお、登山大系によると、平岩山寄りの鞍部から下降して岩魚止沢を登るとある。雪渓に阻まれないようにするには、その方が良さそうである。(K.Ku)


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