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No.4704
コカクナラ沢
朝日連峰祝瓶山・野川支流
山行種別 無雪期沢登り
こかくならさわ 地形図

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山行期間 2012年10月22日(月)
コースタイム 祝瓶山荘(7:14)→コカクナラ沢出合(7:32)→屈曲点(9:57)→スラブ登攀(11:20)→登山道(13:52)→祝瓶山(14:03,14:15)→休憩(14:23,14:41)→祝瓶山荘(16:28)
写真 写真は拡大してみることが出来ます
祝瓶山荘 野川に架かる吊り橋 山頂に雲を抱いた祝瓶山
コカクナラ沢出合 平凡なゴーロ歩きが続く 小ゴルジュをへつる
2m滝は左から 直瀑の3m滝 3段10m滝
10m直瀑 一見登れそうに見えるが… ゴルジュが続く
5mナメ滝 すぐの3m滝で右へ曲がる  両滝の二俣は右の本流4m滝へ進む

 
岩峰に紅葉が美しい

 
その上の5m滝
8m滝
屈曲点の手前では岩壁が迫る 左岸の紅葉 覆い被さるような右岸の岩塔
山頂へと高度を上げる 右寄りに進路を取る 滝なのかスラブなのか判らなくなる
右のルンゼを目指すことにした 急傾斜のスラブ+草付きを登る セカンドで登ってくるKさんのヘルメットが見える
山頂まではあと僅か 登山道の下りも高度感がある 背から西日を浴びる祝瓶山

行動記録
 祝瓶山は標高は1,417mとさほど高い山ではないが、岩陵が発達したピラミダルな山容が目を引く山で、朝日連峰の主稜線南端にその存在感ある姿を見せている。2年前に縦走した際、大朝日岳から南南西に延びる稜線の先に、きれいな三角形の山が見えていた。それが祝瓶山で、登高意欲をそそられた自分は翌年に登ったが、色々な意味で印象的な山であった。この祝瓶山を源頭とする沢は何本かあるが、特に雪に削られた東面は険峻で、上部がスラブになり山頂に突き上げている。そのうちの1本であるコカクナラ沢のことを知ったのは、良く参考にさせてもらっているSさんのサイトだった。かつて長井山岳会は登っているらしいが、記録も見あたらない沢だったということで、Sさんによれば日帰りが可能でそれほど難しくはないという。朝日の沢はいずれも長く難しいものが多く、日帰りのできる沢が少ない。しかし、コカクナラ沢は遡行距離も短く、上部のスラブの処理に少々懸念はあったものの、何とか自分にもチャレンジできるのではないかと思えた。そんなわけで昨年遡行のチャンスをうかがったが、パーティーが組めず今年に持ち越しとなっていた。10月も中旬を過ぎれば、周囲からは今シーズンの沢納めをしたという声も聞こえる中、Kさんの休みに合わせて2人で遡行することにした。
 Kさんと待ち合わせ、4時45分頃に出発する。野川沿いに長井ダム、木地山ダムを過ぎ、やがて未舗装路となってもまだ先は長い。祝瓶山荘前に到着したのは6時50分過ぎ。平日ということもあって、他に車は1台だけだ。準備をして7時14分にスタートする。少し歩くと登山道は野川に架かる吊り橋を渡る。今年は11月3日に板を外すとの告知があるが、一昨年は板を外した翌日に来てしまいワイヤーを綱渡りのように渡ったことを思い出す。対岸へ渡り登山道を少し歩き、頃合いでカクナラ沢へ降りたつもりだったが、コカクナラ沢出合より上流に降りてしまったようだ。沢を少し戻り、出合からコカクナラ沢に入渓する。出合から両岸が迫る区間を過ぎると、沢は広がり明るく開放的な渓相となる。滝のないゴーロ歩きがしばらく続く。他の記録でキノコが大量に出ている画像を見ていたので、期待して両岸の倒木や流木に目を配るのだが、ナラタケがわずかにあっただけで驚くほど何も見つからない。まったく肩すかしで、キノコは少しタイミングを外すとこんなこともある。イワナだろうか魚影はある程度見かける。
 V字谷をしばらく歩くと直瀑が現れる。高さは10mほどか。他の記録では岩が脆くて直登できないとされている。そんな滝が我々に登れるはずもなく、素直に右岸から巻くことにした。小さく巻こうと手前の壁に取り付いたが、垂壁でのもう一手が伸びずあえなく敗退。左のガレに移って登るが、斜度の強くなる上部の草付きがちょっと嫌らしい。草ホールドの登りはヒヤヒヤものだが、落ち口の高さで右を見るとトラバースできそうだ。その後は楽にトラバースして落ち口に出る。沢はV字谷からさらに狭くなり、ゴルジュの様相となる。谷の逆三角形の向こうには、稜線なのかその手前の岩壁なのかわからないが、ゴツゴツした岩峰が見えてくる。さほどの水平距離でもないのに、これからあの高みまで登るのかと思うと少々心配にもなる。
 左岸の細滝で落ちる支沢を見送ると4mナメ滝を右岸伝いに越え、すぐ上の3m滝で沢は右へ曲がる。760mの二俣はどちらも滝で合わせ、右の本流4m滝を右壁から登る。次の3m滝も容易で、さらに小滝をいくつか越えていく。沢の前方にはゴツゴツとした岩峰が姿を現してきた。これは祝瓶山南尾根の稜線下にある、地形図で崖の表示がある部分だろう。下から見上げるとこんなふうに見えるとは、地形図からは読みとれない。ここまで来て初めて、目の当たりにすることができる眺めだ。白っぽい岩肌に錦の衣をまとった姿が、抜けるような青空をバックにして映え美しい。紅葉はまさにピークで、このタイミングで登れたことに感謝する。
 800m付近で現れた段々の8m滝は、左壁から登り始めるが3/4までは比較的容易。しかし、そこから上の草付きが嫌らしい。流れの中にある苔のテラスをシャワーで横切り、右へ抜ければクリアできそうだが、スリップの心配と濡れたくないことから思い切れない。結局、草を掴んでハンマーを刺しながら強引に登るが、確かめてから体重をかけようとした岩のスタンスが落ちたりと、結構ヒヤヒヤでストレスのある登りとなった。頼れるものがむしり取れるような草しか無いのは心臓に良くない。慎重に落ち口に下りると、後続のKさんを確保するためハーケンで支点を取る。ちなみにこの日ハーケンを使ったのはここだけだった。すぐ上にもう1段5m滝があり、のさんにはそのままつるべで登ってもらう。
 登るにつれて岩壁が空を塞ぐように近づいてくる。その自然の造形は岩塔を配置した要塞、あるいは鬼ヶ城とでも言いたくなるような威圧的な姿だが、色とりどりの紅葉がその印象を和らげている。やがて沢は岩壁の下部に沿うようにして右へ大きく曲がる。ここが屈曲点だ。祝瓶山の山頂が直接見えてくるが、見上げる角度からもまだまだ標高差があることがわかる。
 岩壁を左に見ながら、水量の少なくなってきた沢で快適に高度を上げていく。左の岩壁からの支沢を過ぎ、右から合わせる支沢を見送ると、今度は山頂下の岩壁を目指して登っていくようになる。そろそろ右の尾根に逃げるか、岩壁を登り抜けるか決めなければならない。今回コカクナラ沢を登るにあたり、ネットで見つかる数少ない記録を読んだが、上部のラインは各パーティーバラバラのようだった。岩壁を避け登山道のある東尾根に支沢から登り上げるライン、岩壁を登り抜けて山頂直下に出るライン、岩壁の左よりのルンゼを登り登山道の無い南尾根に出るラインで、詰めのヤブこぎも15分から1時間と差がある。実際のところ地形図と照らし合わせようとしても、岩壁の複雑な地形からは今ひとつ直登ラインを読みとることが出来ない。手前の岩壁に隠れて山頂も見えずどうしたものかと思うが、出来れば山頂直下に突き上げたい。950mを過ぎた辺りで、細くなった沢がスラブ岩で左右に分かれる。右へ進路を取り山頂直下を目指すことにした。
 4m滝を直登し岩壁に近づいていくと、沢形ははっきりしなくなり傾斜の強いスラブと草付きのミックスになる。岩のフリクションはあるが、傾斜が強く高度感もあるので緊張の登りが続く。岩壁の間に見える1本のルンゼを目指すラインを定め、ロープを伸ばしていく。所々にあるブッシュに、ようやくランニングビレイを取るという感じだ。これはもはや沢登りではなく、アルパインクライミングの世界だろう。左手に見える岩壁は切れ落ちるような傾斜だが、こちらも向こうから見れば同じような状況だろうと思うと冷や汗が出てくる。ルンゼの入口をブッシュ頼みに強引に登り、傾斜が落ち着いたところでようやくロープを外す。やっと緊張感から解放されホッとする。30mロープということもあり、Kさんと交互に8ピッチ以上登ったような気がする。我々と違って慣れているパーティーなら、ロープを延ばす回数はもっと少なくてすむのだろう。さらに登るとほどなく笹ヤブになる。25分ほどヤブをこぐと、1,350mあたりで登山道に出た。登山道とはいっても、先ほどまでとそう変わらないような、草混じりの岩場にペンキマークがあるだけの道だ。もう山頂までは高さで70mもない。最後の詰めはあまり沢形を追わずもう少し左に寄れば、もっとヤブこぎも短くてすみ、頂上直下のスラブにダイレクトに出られたようだ。
 最後の急登に張ってあるトラロープに助けられると、誰もいない山頂に到着した。山頂は遮るもののない360度のパノラマが楽しめる。大朝日岳など朝日連峰の主稜線が一望できる。少し風があるので山頂より下がって昼食休憩とした。暖かい日差しが心地良く、無事登ることが出来た充実感に浸る。後は東尾根を下るだけだが、崩れていたり滑りやすいところも多いので、滑落しないよう気を抜かずに歩こう。尾根の左手にはヌルミ沢源頭の迫力あるスラブが見える。機会があればここも登ってみたいものだ。祝瓶山荘までノンストップで下り、本日の山行を無事終えた。紅葉のベストタイミングに登ることができたのは最高だった。
 コカクナラ沢は大滝こそないが、現れる滝はすべて直登か小さく巻ける。しかし、雪に磨かれた平滑な岩と草付きの登りには、細心の注意が必要だ。スラブのフリクションは良いが、油断せずスリップには注意したい。自分の沢靴はフェルトだったが、Kさんが履いていたラバーソールの沢靴の方がスラブには合っているだろう。ロープはメンバーに合わせて積極的に使いたいが、その分時間もかかるので見込んでおくことが必要。いずれにしてもこの沢は上部の詰めのルートファインディングで、沢の印象と遡行時間がかなり変わるだろう。我々は条件の良い日に9時間以上だったが、ソロで6時間で駆け抜ける猛者もいるし、11時間を要しているパーティーもある。今後コカクナラ沢を登ろうとする方には、是非良いタイミングで時間に余裕を持って登ってもらいたい。(K.K)

溯行図

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