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No.4687
松川
吾妻山・最上川源流
山行種別 無雪期沢登り
まつかわ 地形図

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山行期間 2012年9月26日(水)
コースタイム 林道駐車地点(5:23)→入渓(5:50)→ヒョウタン淵(6:46)→三俣(8:54)→二俣・明道沢出合(13:17)→970m小屋跡(14:14)→大平温泉への道(16:38)→大平温泉(16:47)→不忘閣跡(17:43)=林道駐車地点(18:10)
写真 写真は拡大してみることが出来ます
林道分岐を右へ橋を渡る 矢沢が右から合わせる出合 ナメを幅いっぱいに水が流れる
ハート形の釜を持つ滝 小滝でも釜は大きい 見た目より岩が滑るので慎重に登る
釜の大きい3段6m滝(左岸巻き) 釜と淵がヒョウタン形の15m滝 1時間の高巻き
左岸の崖から水がしたたり落ちる 堂々とした15m直瀑 淵の倒木を渡る

 
三俣は左が本流で右から2本合わせる(もう1本は手前)

 
右岸から越える
手前の1本はかなりの高さから落ちる
振り返ると2本の支沢が美しい ツルツルの8m滝は直登を断念し巻く 15m滝
しばし穏やかな沢歩きが続く 2段20m滝 高巻き途中からの40m滝
20m滝は右壁の溝を登る 10m滝は右岸から巻く 明道沢出合の二俣(右が明道沢)
明道沢 二つの沢が混じり合う出合の釜 出合の釜すぐ上の本流の釜
釜を泳いで取り付いた滝 ゴルジュの巻き途中から見た滝 このゴルジュの突破は常人には困難
大平温泉への道まで登り上げた 松川に架かる吊り橋を渡る 松川と大平温泉滝見屋

行動記録
 松川は遡行に時間がかかる。源頭まで詰めようと思えば2日間は必要なので、途中にある大平温泉までを1日で遡行することにした。大平温泉までなら8〜10時間ほどで遡行できるようだが、自分達の力量を考え余裕をもって11時間30分の計画とした。しかし、日も短くなってきた9月下旬に、その行動時間を確保するには早朝出発が欠かせない。前夜に大平集落入りし、明るくなり次第行動開始する計画とした。
 前日Kさんと合流したのは22時をだいぶ過ぎていた。国道13号を山形へ抜け、大平集落から大平温泉への急で細い山道を登っていく。不忘閣ヒュッテ跡に自転車をデポすると、大平集落にとって返した。不忘閣ヒュッテ跡にデポしたのは、遡行に手間取り時間切れとなった場合、標高970mほどにある小屋跡から直接不忘閣ヒュッテ跡に登り返すことも考えたからだ。しかしこの道、地形図にはあるものの現在どうなっているかは不明だ。
 大平集落のとある場所で車中泊し、午前4時きっかりに起床。まだ真っ暗で空を見上げると満天の星だ。集落の奥に進み、神社の先の林道に入ると道路脇にスペースがあり車を置く。まだうす暗い林道をしばらく歩くと分岐があり、右の橋を渡り進むと行き止まりになる。踏み跡をたどると松川に降り立つ。右から矢沢が合わせる二俣となっている。川というだけあって幅も広いのだが、一昨日の雨の影響も残り少し増水している印象。他の記録には水の色が青白いブルーという記載があるが、今日はまだ陽が差していないせいなのか、はたまた増水の影響か少し薄茶色く見える。
 岩が滑りやすいとは聞いていたが、やはり本当に滑りやすい。いつもならたやすいと思えるへつりも、慎重にしないと足下をすくわれてしまう。気を付けても何度かドッポンしてしまう。今日の足元は自分がフェルトソールで、Kさんがラバーソールだが、どちらも滑ることには変わらない。岩を見ると白っぽい付着物が表面を覆っているような感じがする。おそらくこのせいで滑りやすくなっているのではないだろうか。水が白く濁るのもその成分によるのだろう。下手にへつると滑るので水に入って歩くところも多い。1週間前までは連日30度を超すような残暑も、彼岸を過ぎて急に秋らしくなり水が冷たく感じる。適度にナメもありどの小滝にも釜があるが、白濁して深さがわからないのがちょっと不気味だ。暑い日は楽しい遡行ができるだろう。途中ハート形の面白い釜を持つ滝もあった。
 遡行開始1時間弱で、15mのひょうたん形の釜というか淵のある滝に行き着く。もちろんここは直登どころか滝に近寄ることさえ困難なので、少し戻って右岸からの高巻きになる。自分は高巻きのルートファインディングにあまり自信がない。自分でルートを判断しなければならない、踏み跡の無い高巻きの経験がほとんど無く、数少ない経験もあまり上手くいったことがない。それだけに高巻きが多い松川の遡行は、自分にとってチャレンジだった。右岸の急斜面をブッシュを掴みながら登る。浮き石があるので、後続のKさんとラインが重ならないように気を付ける。右手の尾根を乗っ越してトラバースしながら下降すると、支沢に合わせたのでそのまま下ると松川に戻ることができた。標高差100m以上で約1時間の大高巻きだったが、何とか上手くいったと少し自信を持ったが、逆にそれがこの後の高巻きで失敗する伏線となったのかもしれない。やがて喉のようなゴルジュを過ぎると、大きな釜のある堂々とした15m直瀑。高さはそれほどでもないが、どっしりとした風格がある。右から滝で合わせる支沢から登って小さく巻く。支沢の滝は滑りやすいのでロープを出した。
 ナメ滝を越え、淵の倒木をバランスで渡ると右から支沢が遥か上から落ちている。そのすぐ先で別な支沢が同じく右から滝となり、本流の釜に落ちている。他の記録では三俣と表現されている。一番手前の沢が遥か上から落ちている様は見事だ。ここは右岸をへつるようにして越える。すぐ8mナメ滝があり、かなり滑りやすいとの情報どおりツルツルだ。水流左端をトライするが、中段にすら届かず滑り落ちてしまう。何度目かのトライで、Kさんを巻き添えに釜に落ちてしまった。不意に落ちたので正直焦ったが、何とか2人とも下流左岸に泳ぎ着く。この後Kさんもトライするがダメ。ここを直登している記録もあるが、やはり技術の差かと直登を断念し右岸を小さく巻いて越える。
 次の15m滝は斜上する右岸から難なく越えられる。しばらく大岩とナメが交互に現れ、穏やかな沢歩きがしばらく続く。 やがて2段20m滝でそのすぐ上にも滝があるのが見て取れる。右に支沢がありここから入って巻こうと、なんとなく登ってから左の急斜面に取り付いたがこれが大失敗。登ってみると意外に悪い斜面でトラバースをためらっているうちに追い上げられてしまった。完璧にルートを外したと思いながら沢の方向へと回り込んでみると、なんと先ほどの滝の上にある40m滝の落ち口が目線の高さだ。やむなく40m滝も一緒に巻くことにして、ナイフリッジの尾根を渡り枝を掴んで下降し、40m滝の上の6m滝も巻いて沢に戻った。この高巻きに1時間ほど費やしてしまったが、それよりも高巻きの失敗が堪えた。よく地形を見れば落ち口目指して小さく巻けたはずなのに、明らかに自分の判断ミスだ。最初の高巻きで大きく巻いてたまたま上手くいったことが、頭に残っていたのかもしれない。いずれにしてもがっかりしてしまった。40m滝も巻いてしまい登れなかったことも残念。しかし、失敗はこれだけではなかった。
 20m滝はロープを引いて右壁の溝を登り、上でKさんを確保する。高巻きの失敗から慎重になり、時間をかけても確実に越えようという意識になる。次の堰堤のような10m滝は右岸から小さく巻く。ほどなく二俣が現れる。明道沢との出合だ。ほぼ予定に近い到着時刻にひと安心する。右の明道沢と左の本流の水はどちらも透明なのだが、二俣の釜で両方が混ざるとなぜか白く濁る。各々の水に含まれる成分が反応するのだろうが、なんとも不思議な感じがする。明道沢の水に触れる岩は、赤茶色になっていたのが印象的。本流へと進むと、釜の水はキラキラと透明に輝いていて、別な沢に入ったのではないかと思えるほどだ。この釜は右岸を小さく巻く。
 次の喉のように狭まった4m滝は釜が大きく、手っ取り早く泳いで滝に取り付いた。しかし、結局その先に進めず左から小さく巻くことになった。午後2時も近くなり、陽の届かない沢でずぶ濡れは寒くて体力を消耗する。そろそろ時間も気になってきた。ミニゴルジュは左から巻いたが、上の斜面にはビンや陶器のかけらが散乱している。おそらく上に小屋でもあってゴミを捨てたのだろうと思い、少し上がってみると小屋はないが石垣と骨組みの名残があり案の定だ。何の小屋だったかは知らないが(後で調べると廃湯となった吾妻温泉(大平古湯)ではないかと思える)、ここから地形図では、不忘閣ヒュッテまで道が延びている。時間が押したときのエスケープルートとして考えていた道だ。今はヤブ化していてよく分からないが、たどることは可能ではないだろうか。この巻きを懸垂下降で沢に下りると、大平温泉まではあと少しだ。
 右岸がかなり切り立った崖になり、左岸を歩いているとなんとなく匂いがする。見ると温泉が湧いていた。誰が付けたかパイプもあるが、そこからお湯は出ていない。近くに焚き火跡もあり、誰か遡行者が温泉を楽しみながらビバークしたらしい。我々は足を漬けて束の間の温もりを楽しむ。沢が左に曲がるとゴルジュが現れる。このゴルジュは松川でも最難関というよりも、ここは巻くべきところであって突破する対象とはなっていなかったようだ。しかし、3年前にある猛者が突破してしまった。しかも単独でだ。世の中には凄い人がいるものだと感嘆するしかない。もちろん我々のレベルではトライなど考えられない。下手すれば呆気なくたたき落とされ流され、釜に沈んでしまうだろう。ここの高巻きを約1時間と考えていたので、予定よりは遅れたが17時前には大平温泉に着けるだろうと考えた。高巻きは右岸からとなるが、見ただけでもかなり厳しそうだ。少し戻りながら傾斜の具合を見て斜面に取り付いた。しかし、これが戻りすぎであったことを後で知ることとなる。かなりの急斜面を登りながら、右手となる滝の方に寄ろうとするのだが、手がかりとなるブッシュが薄くて難しい。もう少し上に行くかと思っているうちに、またしてもかなり上へと追い上げられてしまった。強引に右へトラバースも考えたが、斜面の状況からかなりリスクがあり、途中でにっちもさっちもいかなくなればビバークになる可能性も感じ始めた。1時間ほど登った時点で沢に戻ることを諦め、さらに上にあるであろう大平温泉への道まで登り上げることにした。時間も急いていたので、申し訳ないがKさんにもハッパをかけ、休みも取らず登り続ける。画像を撮る余裕さえなくなっていた。いよいよ厳しい場面ではロープを延ばして何とか突破。高巻き開始から1時間半ほどかけ、ようやく道に出ることができた。やれやれひと安心だが、またしても同じような高巻きのミスをしてしまったことでかなり落ち込む。やはり自分にとって高巻きのルートファインディングは鬼門。これまではリーダーのもと高巻きをしていたか、明確な踏み跡のある沢が多かったので明らかに経験不足。高巻きのセンスも足りないのだろう。Kさんにはしんどい思いをさせてしまった。敗退とは言わないが、気持ち的には近いものがある。
 せっかくなので、Kさんが休憩中に大平温泉まで下りてみた。以前バイクで来たときにも思ったが、こんな奥深い山中に宿を造ろうとした先人達は凄い。本当ならここまで遡行するはずだったと思うと、自分の力量不足とはいえ残念だ。すぐ引き返しKさんと淡々と歩く。左から射す眩しい夕日も、すぐ落ちてしまい暗くなってくる。デポした自転車は1台なので、ライトの明かりを頼りに約6kmをブレーキかけっぱなしで下り、車に乗りとって返すとKさんを迎えに再び登った。4日前の押倉沢に引き続き、今日も行動時間が12時間を超えてしまい、なんともハードな沢登りとなった。
 さて、松川について日本登山大系にはこうある。「吾妻連峰ではもっとも困難で最もおもしろいのが松川である」と。また上級者向きの沢であるとも書かれている。確かにそうであろうと今回遡行して実感することができた。また、8〜10時間が稜線までの遡行時間のように書いてあるが、それは大平温泉までのことではなかろうか。松川の遡行記録はそれほど多くはない。山スキーと沢登りを山行のメインとする福島登高会でも、先輩方が何度か遡行しているが、それはかなり以前のことだ。それでも先輩から聞いてはいた。いわく「水量が多くなかなか難しい沢」で「危ない沢」だとも。現在リードしてくれる先輩もいない中で、松川を自分の力でやろうとしたのだが、力負けした感じがする。いや、松川相手に力勝負なんてとんでもない傲りだ。無事帰らせてもらっただけでも感謝しなくてはならないだろう。しかし力量のあるパーティーは、松川を楽しんでさえいるのだからレベルの違いとはいえなんともである。松川は美しい渓相というのとはちょっと違う。大平温泉までのことではあるが、直登できる滝は小滝くらいしかなく、高巻きのルートファインディングも難しい。しかし、水量の多い滝はおしなべて堂々と迫力があり、まさに深山幽谷の沢登りを味わえる。来年まだ体力と気力が充実していて許されるのなら、是非リトライしてみたい。その時は2日かけて稜線まで詰めよう。50代半ばも近い中年沢屋でも、そのくらいの夢は持ってもいいのではなかろうか。(K.K)

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