Fukushima toukoukai Home page
No.4536
金木戸川・小倉谷
北アルプス 神通川水系
山行種別 無雪期沢登り
もかなきどがわ 地形図

トップ沢登り>金木戸川・小倉谷

山行期間 2011年8月13(土)〜17日(水)
コースタイム 8月14日
新穂高温泉(6:00)=第1ゲート(6:40,6:45)→第2ゲート(8:00)→取水施設(9:50)→小倉谷出合(10:00,10:20)→4m滝(10:50)→10mトイ状滝(11:13)→2段7m滝(12:28)→15m滝(13:00)→広河原(13:06)→15m淵(14:40)→6m滝(15:30)→10m斜瀑(16:20)→幕営地(16:30)
写真 写真は拡大してみることが出来ます
金木戸川林道第1ゲート 第2ゲート 素堀のトンネル
眼下に見える金木戸川 取水施設 小倉谷出合
泳いで渡渉する 小倉谷に入渓 最初の4m滝
10mトイ状滝 最初から懸垂下降 2m滝と釜

4m滝でのショルダー
2段7m滝 5m滝も左の大岩をショルダーで超える

ロープで後続を引く
15m滝 15m淵と3m滝
右岸から落ちる30m滝 虹が架かる 6m滝
10m斜瀑 幕営地 焚き火を眺めながら

行動記録 8月14日
 車の中で3時間弱寝て午前5時に起きると、辺りは登山者やバスが到着していて賑やかになっていた。私の車とSさんのバイクを新穂高温泉の無料駐車場の方にデポし、Sさんの車で金木戸川林道へ向かう。
 国道471号から双六川沿いの道に入り、5キロ以上進んで民家が無くなると金木戸川林道になる。沢登りなのか釣りなのか既に7〜8台の車が止まっている。残念ながら第1ゲートは閉まっていた。通常ここから先は鍵を持っている関係者しか入れないのだが、開いているときがあるのだという。その場合は第2ゲートまで入れるらしいが、今日はここから入渓点まで延々約13キロも歩かねばならない。
 右下に金木戸川を見ながらテクテク歩いていく。のんびり歩いたので第2ゲートには1時間14分もかかってしまった。ところでこの林道には素掘りのトンネルが何箇所もあり、山懐深く入っていくこと感じさせる。後から地元ナンバーの軽トラが走ってきて我々を追い越したと思うと止まった。乗せてくれるという。いやはやこれは有り難かった。結局かなり上の方まで乗せてもらうことができた。金木戸川の岩は白くて水が青く輝き美しい。その支流である小倉沢はどんな沢だろうと期待がふくらむ。
 水力発電所の取水施設には9時50分到着。第1ゲートよりここまで約3時間だったが、軽トラに助けてもらえなければ4時間はたっぷりかかっただろう。ちなみにこの取水施設から上部はすべて禁漁区となっていて、目立つ看板がそれを知らせている。右岸の踏み跡を少したどると金木戸川に降りるので、そのまま河原を進むとすぐ小倉谷の出合だ。
 ヘルメット・ハーネスなど沢装備を装着する。対岸の小倉谷へは金木戸川を渡渉しなければならない。今日の水量はおそらく普通程度だろうが、歩いて渡るのは無理な水深。泳ぐしかないが増水すればそれも不可能になる。今回の計画でもここが渡れない場合は潔く撤退としている。いよいよ小倉谷の遡行開始だ。陽の光を受けきらきら輝くエメラルドグリーンの水は美しいが、ここを泳いで渡るとなると気も引き締まる。Hさんがトップで水に入っていく。私は平泳ぎを始めたが、浮かんだザックが後頭部を押すので息継ぎしづらい。横泳ぎに切り替えたところ問題なく泳げた。この経験からこれ以降ザックを背負っているときは、横泳ぎを使うこととなった。各々のスタイルで全員無事に渡渉完了。
 沢には大岩が多い。自分がこれまでやってきた沢より明らかに大きく、スケール感が違うことに最初はとまどう。自分にとってこの規模の沢を登るのはほとんど初めてなのだ。なるべく遡行記録を付けようと思っていたのだが、すぐそんな余裕はないことに気付く。とにかくSさんの遡行スピードが速い。先行してすぐ見えなくなってしまい、大岩の上に座って我々を眺めながら待っている。HさんとYさんはマイペースだが、こちらも同じように歩くと記録をしている余裕はなくなってしまう。ビールに清酒に焼酎と安物の嵩張るシュラフなど、詰め込みすぎたザックは18キロにもなり、沢登りにあるまじき重さとなって肩に食い込む。皆についていくのが精一杯となってしまった。そんなわけで、この記録で表記する滝の高さなどは、遡行図など詳細な記録の載っている豊野則夫著「北アルプスの沢」(以下、「北アの沢」とする)に準ずることにする。
 最初の4m斜滝は右から越えた。泳いで取り付けそうだがそこまですることもない。歩いていくと沢中にレールとおぼしき物体を発見。森林軌道でも昔あった名残なのだろうか。10mトイ状滝が見えてきた。手前の3m滝を左から越え、続いて10mトイ状滝を右から巻きにかかる。先行するSさんを追っていくと、なんと既に沢床へ懸垂下降で降りているではないか。高さは4mほどだが初っぱなから懸垂下降になるとは思わなかった。しかし降りてみるとすぐ先の斜面を普通に降れるようになっている。この懸垂下降はちょっと勇み足ということか。小倉沢下流部は両岸が迫っているところが多く、樹木も被さり陰影のある沢で、白い岩肌と緑の渓流の対比の美しい渓相だ。あえて水に浸かりクールダウンしながら小滝を思うままに越えていく。
 2段7m滝が現れるが、右岸をそのまま歩けば容易に越えられる。直ぐ4m滝となるが両側は大岩で簡単に登れそうにない。右が可能性がありそうだと見ていると、Sさんがこっちを向いて「ショルダー!」と言う。は?俺?と思ったが意味が飲み込めた。今日のパーティーでは一番ガタイが良い(体重が重い)俺に下になれということなのだ。Sさんを肩に乗せて立ち上がるとSさんは岩の上に容易に上がることが出来た。後続はお助けテープの世話になる。Hさんはせっかく持ってきたキャメロットとアブミを、ここで使いたかったとぼやく。Sさんによると3段ショルダーまでやったことがあるという。つまり3人で組んだショルダーをもう1人が登るのだから、5m程度までは届くということだろう。次に廊下状のゴルジュの先にある5m滝も左からショルダーだ。もはやショルダーの台は当たり前のように俺の役。肩では足りずに頭の上に乗ってSさんは這い上がった。しかし振り返ってみると右岸を巻けたんじゃないの。
 両岸の狭まる間に右から轟々と落ちる15m滝が見える。もちろん直登など出来ないので手前右から巻く。降り立った沢は開けた河原となっていた。北アの沢で広河原と記されているところだろう。その後はしばらく小滝やナメが続き、お遊びで泳いだりしながら遡行を続ける。ゴルジュ帯の入口に着いたときは既に午後2時半を過ぎていた。奥にかかる3m滝の手前には廊下状に淵が15mほどある。泳ぎが好きな自分が空身でロープを引いて滝手前の左壁に取り付く。水中にスタンスを見つけ5mほどの壁を登る。ザックと後続をロープで引いて左壁に上げる。しかし水を吸って20キロはあるだろう自分のザックの重いこと。その後は微妙なトラバースをして滝の落ち口に乗ったが、このトラバース部分は左から小さく高巻くことも出来たようだ。そろそろ幕営地も探さなければならないが、この辺りにはなかなか適地が無さそうだ。
 右岸から30mの滝となって支沢が落ちている。本流に落ちるところでは水しぶきで虹を架けている。なんとも美しく見事だ。この滝の直ぐ先に淵があり、左へ直角に近く曲がる沢が6m滝となって落ちている。空身のSさんが右岸をへつり滝の水流左を直登する。続いてHさんも登り後続をフォローする。Yさんがへつり中に淵へ落ちたり、重いザックのつり上げにちょっと手こずる。そうしてると今度はロープが水中の流木か何かの隙間に挟まったようで、どう引いても外れなくなった。水中の潜って外すのも無理なので、やむを得ずSさんのロープを5mほどナイフで切断するしかなかった。ハプニングがあり時間もかかったが、全員滝の上に上がることが出来た。次の3m滝を左から巻き10m斜瀑の水流左を直登すると、午後4時半も近くなっていた。
 Hさんが決めた幕営地は、おそらく北アの沢でも幕営可能地と記されている場所だろう。増水すれば逃げるしかない場所だが、沢の中では贅沢も言ってられない。雨は降りそうもないので大丈夫だろう。Yさんと整地をしてタープを張ると快適な寝場所になった。焚き火を起こして渓流で冷やしたビールで乾杯する。皆さんどこに入れてたのというくらい、酒やつまみが出てくる出てくる。心地よい時間を過ごした後シュラフに潜り込むと、渓流の音を聞きながら8時頃には眠ってしまった。


コースタイム 8月15日 幕営地(7:24)→6m人の字滝(7:43)→25m滝(8:00)→6m幅広滝(8:52)→両門の滝(9:08)→両門の滝左俣(9:18)→7mナメ滝(9:52)→2段40m滝(10:20)→30m滝(11:20)→一枚岩の幕営地(11:42)
写真 写真は拡大してみることが出来ます
岩壁に朝日があたる 人の字6m滝 ナメが続く
6mナメ滝 30m滝 6m幅広滝
両門の滝が見えた 両門の滝 両門の滝右俣
両門の滝左俣 左俣はロープを出す  シャワーで登る
7mナメ滝 2段40m滝 30m滝

この一枚岩を幕営地に決定

のんびりした至福の時間
巻き途中からの30m滝

行動記録 8月15日
 午前5時に起床する。昨夜は沢音を聞きながらぐっすり眠ることができた。昨日の疲れが残っていないか心配したが、体調も良く今日も闘えるぞという感じがする。他の3人も元気。ささっと朝食をすませてタープを撤収する。7時24分に出発。幕営地のすぐ上流右岸からは、水量は少ないが支流の滝が落ちている。目測で40mと読んだが、北アの沢では60mとされている。滝の目測は人によってかなり高さが違う。人の感覚とは所詮その程度なのだ。
 小滝をいくつか越えた後に人の字状の6m滝。水流の中を登るが、水量が多いときは巻くしかないだろう。6m滝の上に出ると沢はナメが続く。昨日の遡行開始以後、平坦なナメはこれが初めて。穏やかなナメは遡行者を癒してくれる。水流が細まった6mナメ滝を右壁と水線通しで各々越えると、前方を見て思わずおおと声が出た。30m(北アの沢では40m)の直瀑が現れた。手前のナメ床は岩もなく平坦で、その先に釜を持つ直瀑がどうどうと水を落としている。ここは右岸から20分ほどかけて高巻く。4m4m5mと続く滝の5mは右から巻いたが、ここは左からの方が楽に早く巻けたようだ。その直ぐ上、右からほぼ直角に6m幅広滝が落ちるて合わせる。支流かと思ったがそれは間違いで、真っ直ぐの方が支流だという。6m幅広滝を直登すると、沢は明るく開けた感じになった。
 少し歩くと2つの大きな滝が見えてきた。これが両門の滝だ。右俣左俣ともに30mほどありそうな滝で、周囲の岩壁と滝が作り出す静と動のダイナミックな景観が素晴らしい。ここまで来た者しか見ることのできない眺めをしばし堪能する。さてこの両門の滝の攻略法だが、北アの沢や他の記録には左俣の滝を登り2つの滝の間にある尾根を越えて右俣に降り立つとあり、Hさんもそのルートを選んだ。右俣の滝を右から登る猛者もいるらしいが、見る限りではかなり難しそうだ。左俣の滝は左から巻く人もいるらしいが、我々は直登することにした。滝を少し登った左端に残置ハーケンがあり、支点に利用する。ロープを引いてSさんが滝を横切るように右へと斜上していく。滝を2/3登ったところの滝右側にテラスがあり、そこで支点が取れたようだ。この滝はナメ滝なので滑ったら下まで落ちてしまいそうだが、後続はロープで安全に登ることができた。残り1/3もSさんのトップでロープの世話になる。シャワークライミングになるが、水が冷たいのでここだけカッパを着て登る。
 左俣両門の滝の直ぐ上には7mナメ滝があり、その上もナメと滝が続いているのが見えた。この左俣からも笠ヶ岳に至るらしいが、我々は左岸を登り右俣を目指す。尾根に上がると薄い踏み跡が見え、追うと難なく右俣に降り立つことができた。巻きに要した時間は10分ほど。沢はさらに開けた感じになった。10分ほど遡行を続けると2段40mの滝。下段はいろんなラインで登れそうだが少し岩が滑る。Sさんは水流を突破、私は右壁から登る。上段は滝身の右を登ると最後が少し苦しいが、力任せに体を引き上げる。この上段は、踏み跡のある右から巻いた方が安全で楽だろう。落ち口で右から巻いたHさんYと合流し休憩。キジ打ちに左岸の笹ヤブに入ると、誰かがテン場にしたような跡があった。さらに遡行すると、大岩が積み重なって急に高度を上げた先の断崖に30m滝があった。ちょっと吾妻の姥滝沢にある姥滝も似ているが、スケールはこちらが一回り以上大きい。Sさん先行して左のガレからヤブに入り巻いている。こちらはもう少し大回りで巻き20分ほどで落ち口に出る。
 滝の落ち口に出ると滑らかな一枚岩。滑るとウォータースライダーになり、高さ30mの空中に飛び出すことにもなりかねないので要注意。開けていて眺めが良く柔らかい草も生えていて、何と気持ちのいい場所だろう。私の高度計によると標高1,870mほど。あまりに良い場所に思えたので、まだ昼前だが今日の遡行を終了し、幕営地をここにしようかとの話しになる。結局、幕営予定地よりかなり手前だが、明日の行程には余裕があるので、今日はここを幕営地に決める。少し傾斜があるが、平坦な岩で整地の必要もない。暗くなるまでゆっくりのんびりと過ごすことにした。タープを張り、枯れ枝を集めて焚き火の準備完了。2本残していたはずのビールは、1本が潰れて漏れてしまったので残りの貴重な1本で乾杯。ワインにウイスキー、日本酒と続く。その合間に食事。そのうち雨が降ってきたのでタープに逃げ込む。結構本降りになる。しかし薄暗くなる頃には雨も上がった。担ぎ上げた酒を飲み干し、いい加減酔いが回った私は、天空の三つ星ホテルでいつしか眠りについていた。


コースタイム 8月16日 幕営地(6:44)→2段15m滝(8:03)→8mナメ滝(8:12)→奥の二俣(8:45)→15m滝(8:47)→連瀑帯→4mCS滝(10:52)→笠ヶ岳(13:48)→笠ヶ岳山荘(14:19
8月17日 笠ヶ岳山荘(4:38)→笠新道分岐(5:59)→左俣林道(9:42)→新穂高温泉(10:43)
写真 写真は拡大してみることが出来ます
しばらくは穏やかな渓流 2段15m滝 8mナメ滝
奥の二俣 15m滝 15m滝の上から
階段状のナメが続く 10m斜滝 稜線が見えてきた
右の本流に4mCS滝 ライチョウの家族 山頂直下のガレ場も見える
キツイ登りが続く 振り返ると高度感がある 山頂直下のトラバース
笠ヶ岳の山頂はガレ山という感じ 笠ヶ岳山頂に到着 笠ヶ岳山荘

行動記録 8月16日
 朝食を済ませると、今日下山してしまうSさんが6時14分に単身出発する。こちらはゆっくりと6時44分に出発。前方に山頂への斜面が見えるが稜線はガスで見えない。2段15m滝は左岸の支流滝を直登し、頃合いを見て左の本流の滝上段へ戻り登る。8mナメ滝は直登する。インゼル(中州)を過ぎると直ぐ奥の二俣。二俣の左手に幕営可能な平場がある。この辺りで既に標高は2千mを超えている。奥の二俣の左俣に入ると直ぐ15m滝。ロープ練習の意味もあり私がトップで登ることになる。右からも登れるようだが私の判断は左壁から。ちなみにHさんの採点では65点。もっと練習せねば。
 しばらくは階段状のナメが続く。小倉谷はいよいよ傾斜を増し、いくつもの滝を連ねながら標高を上げていく。もはや大滝は現れず、いずれの滝も直登可能だ。時々乾いた岩にSさんの濡れた足跡を見つける。無事に先行して登っているようだ。それにしても入渓してからここまで、他のパーティーを見かけることはなかった。幕営適地は多くないのに、焚き火跡を見つけることもなかった。アプローチや遡行日数からして入渓するパーティーは限られるのだろう。
 稜線の登山者が徐々にハッキリ見えるようになる。どうやらこのまま行くと山頂直下に突き上げるようだ。山頂直下はさらに急傾斜になるので、不安定な積み木のようなガレを右の尾根へとトラバースする。尾根に乗ると岩に白ペンキの矢印と○印があった。稜線の登山道だ。そこからほんの数分で笠ヶ岳山頂(2,897.5m)。小倉沢を山頂まで忠実に詰め上げることが出来た。後続の2人を待って3人で山頂到達を祝う。山頂には10数人の登山者がいたが、小学校低学年の女の子までいたのには驚いた。アルプス主稜線を一望という期待は残念ながらガスのためかなわず、笠ヶ岳山荘へと下ることにする。

8月17日
 まだ暗い4時38分に小屋を出発。笠新道をガスの中ヘッデンでの下山。途中でまたライチョウ家族に至近距離で遭遇。途中で雨に降られたりしながら、標高差1,800mを一気に下り穂高温泉に到着した。温泉で汗を流し、食事して帰宅の途についた。(K.K)


溯行図


Copyright(C) 2011 福島登高会 All Rights Reserved.