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No.4411
日蔭沢
摺上川流域・中津川支流
山行種別 無雪期沢登り
ひかげさわ 地形図 稲子、栗子山

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山行期間 2010年7月31日(土)
コースタイム 第11号橋(8:48)→日蔭沢出合(8:56)→二俣(9:27)→左俣3m滝(9:53)→左俣10m滝(10:42)→ヤブ開始(11:25)→尾根(11:56)→七ツ森三角点(12:44)→大沢下降開始(12:51)
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水量の多い右俣へ進む 滑りやすい岩が多い
程なく6m滝、シャワーで越える 小さい滝も多い V字に鋭く狭まるゴルジュ
ヤブを漕いで尾根へ 山頂が近づいてきた 七ツ森の三角点

行動記録
 摺上川は福島県・山形県・宮城県の3県境近くの福島県福島市飯坂町茂庭に源を発し、宮城県刈田郡七ヶ宿町稲子を経て再び福島市へと戻り、福島市瀬上町で阿武隈川に合流する一級河川だ。飯坂温泉街の中を流れている川が摺上川と言えば分かる人も多かろう。摺上川の上流部には2005年に多目的ダムである摺上川ダムが完成し、4.6km2のダム湖となっている。
 今年の沢登り合宿はこの摺上川流域の支流のひとつ、中津川の沢で行うことになった。福島登高会では、1981年から1986年にかけて、集中的に摺上川流域の遡行調査を行っている。取り立てて名のある沢もない山域だが、地道に沢の1本1本を遡行し記録していった。その集大成として、1987年には「摺上川源流を訪ねて」という遡行記録集を発刊している。この冊子にはなんと158本もの遡行記録が載せられている。摺上川流域の沢に関する記録としては、いまだにこの時の記録以外見あたらない沢が大半なのである。
 会としてもこの時期以降登っていない沢が多く、摺上川ダムが本格的に着工してからはなお足が遠のいていた。参加メンバーの変動などもあり、2パーティーでそれぞれ31日は摺上沢と日蔭沢、1日はカンカネ沢と山の神沢を登ることとなった。私は31日はYさんと2人で日蔭沢、1日はKさんとカンカネ沢の予定となった。
 31日朝、摺上川ダム湖沿いに付け替えられた国道399号にある駐車スペースに集合し、さっそくダム湖に架かる橋を対岸へと渡る。橋の入口にはバリケードがあるが、我々「関係者」はバリケードをそっと退かして入っていく。対岸へ渡りもう1本橋を渡るとT字路で、左がダムの周回道路、右が中津川沿いの林道となる。右の林道へと入り1.5kmほど進み行人滝を過ぎて間もなく、林道を右手の中津川へと少し降りたところがテン場だ。林道には少々落石があったものの走行に特に問題は無かった。車を停めるとメジロアブがわんさか集まってくる。今日はここにテント泊となるので、朝のうちにテントを張っておくことにする。
 今日は日蔭沢に入る私とYさんの2名パーティーと、摺上沢に入るKさん、Oさん、Yさんの3名パーティーだ。日蔭沢の入渓地点まではかなり距離があるので、Yさんのバイクに2人乗りで行く。ミーティングをしてから、今回はケガのため参加できないIさんに見送られテン場を8時10分に出発した。ザックを背負っての2人乗りは窮屈だが歩くよりは速いので我慢だ。新しい砂防堰堤までは車で行くことができるが、そこから先は草が林道を覆い始め荒れてくる。無理をすれば車でもしばらく進めそうだが、やがて道はあちこち崩れたり落石があったりで車では進めなくなる。そうなれば徒歩かバイクしかなくなるが、釣り人だろうか我々のほかにも新しい足跡やタイヤ跡があった。
 この林道は幅が4mほどでしっかりした橋が各所に架かり、当時は林業関係の車が往来していたのであろうが、今は荒れ放題で中央に1本の踏み跡があるだけになっている。入渓地点まで1.5kmほど手前の崩落箇所でバイクをデポして歩く。2人乗りでゆっくり走ったので、バイクといってもあまり速くはない。車で行けるところまで進み、その後は歩いてもそれほど違わなかったかもしれない。
 日陰沢といっても表示板や明確な目印があるわけではない。林道を歩いていてもどこも似たような地形だ。以前の遡行記録には第15号橋が架かるのが日陰沢と記載されているが、どうもこれは誤植で実際の番号は違うらしいとの情報もあり地形図とGPSが頼りだ。どうもここらしいと足を止めた橋のプレートには第11号橋とあった
 8時56分、橋のたもとから沢に降りる。ごく普通の小さな沢という印象。歩き出して程なく6m滝が現れる。ここは水流左から取り付き水流の中を直登する。さっそくのシャワークライムが気持ちいい。続いて2m滝がありその後も小さな滝というか段差が多くなる。2m4mの2段滝を登るとやがて二俣が現れる(9:27)。水量は1:2ほどだろうか。水量の多い右に進む。
 しばらくは小滝とミニゴルジュが続き、徐々に斜度が増してくる。所々流れの緩いところには岩屑が堆積し流木も多いことから、上流部では山肌が崩落しているところがあるのだろう。小滝とはいえ滑りやすい岩が多く気は抜けないが、あえて難しいラインを取ったりしながら登るのが楽しい。滝の様相を眺め、取り付く場所を決めると自分の四肢をフルに使ってよじ登る。そんな時はテクニックとか技術とかは頭の中に無く、ただただ無心に1匹の獣になって岩を踏み枝を掴み、さらに上へと体を押し上げるのだ。自分にとっては至福のひととき。
 左から支沢が3m滝となって落ちている(9:53)。Yさんが持ってきた1984年の遡行図には特に記されていないが、Yさんは遡行図にある10m滝がここではないかと言う。しかし遡行図は描く人によってかなり異なるとはいえ、そこまで高さを違えることがあるだろうか。しかも遡行図には二俣の手前に7m滝があるとされているが、それらしい滝もなかった。26年間で崩れるなどして10m滝が3m滝に変わったとも思えない。疑問を抱えたまま遡行を続ける。
 今日は自分なりに遡行図を描きながら歩いているのだが、このあたりから徐々に怪しくなってくる。人の遡行図でもそう感じるものがあるのだが、始めは丁寧に描いていても徐々に雑になってくる傾向があるのだ。沢は変化に富んでいるので、何を記録して何を省略するのかの選択が難しい。あまり細かく描いても見づらいものになってしまう。1984年の遡行図でも下流に比べて上流はかなり略されているような感じがする。
 さて7m3mの2段滝を越えると高さのある滝が目に入った。二俣になっているのだが、左俣は滝となって合わせている。どうもこれが遡行図にあった10m滝のようだ。7m滝も符合するのでここを左俣10m滝とする(10:42)。遡行図ではこの二俣2:3の水量比とされているが、自分は1:1と判断したがどうだろうか。ここは右俣へと進む。沢の両岸がV字に鋭く狭まるゴルジュでは両手両足を突っ張り通過する場面も。
 左から支沢が段々の10m滝となって合わさる(10:51)。ほどなくまた左から支沢が6m滝で合わさる(10:59)。ここは右の本流らしき方へ進む。いよいよ沢の水量は少なくなり源頭部が近いことを感じる。6m滝を登りさらに10分ほどでチョックストーンの6m滝(11:11)だ。
 いよいよ沢は細く両側から木の枝が被さるようになり傾斜を増してくる。振り返ると目線の高さで中津川を挟んだ反対側の山々が見える。シュリンゲが沢に落ちているのを発見し驚いた。あまり新しいものではなく、沢登りで使うには不自然に短いような感じがする。しかし釣り人がイワナのいようはずもないところまで来る理由も無いし、やはり沢登りで誰か来たのだろうと思う。それにしても沢登りでこんなマイナーなところまで来るのは福島登高会かトマの風くらいのものだろう。その福島登高会にしても26年ぶりに登ったのだ。それとも誰か三角点の山を登るために沢を登ったのか
 いよいよ傾斜がきつくなり、これ以上沢というか崖にも近い地形を詰めることは困難になってきた。Yさんが脇に逃げられそうだと右のヤブに入る(11:25)。かなりの急傾斜だが枝に掴まりながら何とか突破する。その後は普通にヤブこぎをしながら、ひたすら尾根を目指す。今日は日蔭沢を詰めて七ツ森(1218.8m)の山頂を踏み、大沢を下降するのが目的なのだ。しかし時間がかかれば13:00の時点で下山開始と決めている。それまでに山頂に到達したいものだ。
 頭上に葉を広げる高木のおかげで、ヤブもそれほど濃くなく比較的歩きやすい。七ツ森の北東尾根に到着し昼食休憩とする(11:56)。Oさんのパーティーと無線で連絡を取り状況報告を行う。今日は12:00から30分毎に定時連絡を取り合うことにしている。こちらはこのまま山頂を目指すと話し、向こうも予定どおりの進行状況なのを確認。
 これまでの北斜面を上下方向に歩いてきたのとは違い、緩やかな尾根を登るのは木々の密度が濃いところを横方向に移動する形になり、甚だ歩きにくく苦労する。地図には載ってなくとも大概の里山には尾根に踏み跡や獣道があったりするものだが、この七ツ森にはそんなものは全くない。それでも頑張ってヤブをこぎ続けていると山頂が近づいてきた。ところでYさんは意外にヤブこぎが速い。細身の体と長めの手足でするりするりと掻き分けすり抜けていく。体力には少々自信がある自分でも、ヤブこぎではYさんに付いていくのがやっとだ。
 周囲が開け見わたせるようになってきた。あたりを探すと難なく足下に三角点があるのを発見し七ッ森山頂と確認(12:44)。七ッ森は四方から尾根が合わさっているが、山頂から見るとなかなかの細尾根であり、しかも複雑な地形になっている。Yさんは冬にこの七ッ森に登りたいそうだが、積雪期のあの細尾根はなかなかスリリングかもしれない。声がかかれば同行してみたいとも思う。
 さて山頂に長居はできない。北斜面のブッシュに突っ込み下降を開始する(12:51)。下りは大沢を下降する計画だ。(K.K)

溯行図



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